先週,緊急事態宣言が発令され,ますます高齢者施設への訪問が憚られるようになってきたが,父に玄関先まで出てきてもらって,十数分,会話を交わすことはできる.父も私もマスクをし,念のために施設の方が体温を測ってくれる.施設側の適度な融通のきかせ方に感謝だ.
そして今日も,約束の時間に,父が玄関先で待っていてくれた.玄関から見える応接広間の奥の方に,大きな赤い鳥居が設えてある.入居者に,少しでもお正月の初詣の気分を味わってもらおうという計らいだろう.ちょっとした工夫がありがたい.
少し見ない間に,少し足元が覚束なくなってきた様子だ.ああ,そろそろかな,と思う.
「ここは安心なんだから,いつもと一緒だから,来なくていーのにー」と父.
「ポリデントを持ってきたよ.何か変わったことはあった?」と私.
この間歌ってくれた「満洲娘」をYoutubeで一緒に見て,一緒に口ずさんだ.なんともたのしげな歌だ.
「ねぇーえ,裏町人生,という歌,あるかな? とても良い歌だよ.」と父.スマホで探してみると,1937年の歌が,しっかりと出てくる.父が,一緒に歌い出した.
暗い浮世の この裏町を
覗く冷たい こぼれびよ
なまじかけるな うす情け
夢もわびしい 夜の花
...
昭和12年(1937年) 作詞:島田磬也 作曲:阿部武雄 歌:上原敏 結城道子
父が12歳のころに,ポリドールから.
尋常高等小学校の父が,どんな思いで,この歌詞を口ずさんだのだろう.想像すると面白い.一般家庭にようやくラジオが普及し出した時代だろうか.
それにしても,別の面での私の驚きは,このような古い歌が,Youtubeに挙げられていて,すぐに視聴できる,ということだ.しかも,100万回ものビューの履歴がある.